人生100年時代の昨今、寿命が延びた分、誰もがサードステージを一人で過ごす確率が高くなりました。ずっとひとりの人も、訳あってひとりになった人も、今パートナーといる人も、いずれはみんな“おひとりさま”。60代からが本番のシングルライフに「生前整理」で備えましょう。
シングルライフの
メリットデメリット
少し前まで、“おひとりさま専用○○”や“シングルライフを楽しむ”など、ひとり暮らし対象の商業用語はありませんでした。世間的には「孤独・寂しい・暗い・かわいそう・・・」、ご本人も「なにかと不便や不安が多い・・・」というのが、“おひとりさま”のイメージ。実際、家族単位が主流の社会制度の中、シングルは生きづらいのも確かでした。
しかし、65歳以上のひとり暮らしの割合をみてみると、1980年当時、男性4.3%、女性11.2%だったものが、2020年には、男性11.2%、女性22.4%。この40年間で激増しており、今後もさらに増えると予想されています。“おひとりさま”は、もはや社会のスタンダードともいえます。
シングルライフのメリットは、なんといっても「自由」。また、自分のことは自分でするので、高齢になっても自立生活が続きやすい、家族関係の悩みやストレスが少ないなどメリットも多く、マイペースで暮らすことができます。文壇の重鎮たちを中心に「自立してひとりを楽しんで暮らそう」という指南本やハウツー本が次々出版され、また暮らしをエンジョイする一般の高齢おひとり女子のブログやYouTube発信も盛んになってきました。これからは、家族がいてもいなくても「最後まで自立して楽しく暮らす」がキーワードになりそう。
おひとりさまには早めの「生前整理」をおすすめします。
「生前整理」で
シングルライフに安心を
「生前整理」とは、(一社)生前整理普及協会が提唱し普及している概念で、考え方の基本は以下の3つです。
- モノを片付け、身軽になる
- 心を整理し、未来をデザインする
- 情報をまとめ、大切な人に伝える
特に重要なのは「心の整理」。モノ(特に思い出のモノや写真)の片づけをしながら住まいや暮らしについて向き合い、人生の振り返りをして家族や自身についてあらためて考えていきます。空間や心が整理されると気持ちに余裕ができて、これからのことをスムーズに準備する心構えが出来上がっていくのです。
おひとりさまこそ、生前整理で心を整え、65歳からが本番のハッピーなシングルライフを楽しみましょう。具体的アクションについては、本コラム「100年ライフの大人のたしなみ モノと心・情報のお片づけとは?」「思い出のモノの片づけかた」「写真とアルバムの整理法」「かんたん自分史がセカンドライフのヒントに?!」「充実して生きるための生前整理記録帳の作り方」をご参照ください。
豊かなひとり暮らしのための「4つのコツ」
「生前整理」で身軽になり、未来への道すじが見えたら、もっと充実して暮らすためのコツをどうぞ。
1)住まいと暮らし・・・老後の住まいは、3段階で考える
老後の住まいは、①健康で活動的に暮らせるセカンドライフ、②サポートが必要になってくるサードライフ前期、③介護サービスや医療が必要なサードライフ後期の3段階でプランします。シングルライフの場合はいずれ施設に入居する割合が高くなるので、どの段階でどんな施設に移り住むかは、状況変化に応じていくつかの希望プランを考えておく必要があります。
例えば、資金に余裕があり新たなコミュニティで楽しみたいなら、①②の段階で「自立(健常)型有料老人ホーム」に。元気で自由に暮らしたいが見守りなどの安心が欲しい場合は、①②の段階で「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」に。住み慣れた自宅で頑張りたい方は、②の段階でケアマネジャーとつながっておき、③の段階で必要に応じ「特別養護老人ホーム」や「介護型有料老人ホーム」に。
高齢シングルは、残念ながら賃貸物件の新規契約がしにくいのが現状です。受け皿としてのサ高住が急速に増えていますが、施設ごとに設備・サービス・料金は千差万別。早めにいくつか見学をして眼を肥やしておきましょう。
2)ライフプランと資金・・・不安視しすぎず、早めに数字で可視化する
「将来お金足りるかしら・・・」と心配しすぎて、やりたいことが中途半端になってしまってはもったいない!老後の住まいと暮らしのプランを具現化するために、先立つ資金の確認は不可欠。
金融資産まとめとプランニングの手順は以下の通りです。
資産リストを作る。持ち家があれば査定し、保険や互助会のほかローンなどの借金も忘れずに。
年金など今後の収入と必要生活費を年単位で把握し、収支を確認する(計算は100歳まで!)。
希望の生活プランや趣味などやりたいことについて、目的別に必要額を試算する。そのときひとり暮らしならではの予備費(サポート依頼や医療・介護用)を100万~200万確保できるとよい。
対策を練り、どう暮らすのか改めて考える。例えば就労収入増・資産運用、持ち家の有効活用など。また、予算に見合う施設を探すなどのプラン変更も必要。
この段階で集めた資料を持ってファイナンシャルプランナーに相談し、ライフプラン表を作ってもらうのもおすすめです。
3)介護への備え・・・元気なうちの情報集めがカギ
一人で頑張っている方ほど、周囲に助けを求めるのが苦手。手遅れにならないためには、できるだけ健康で自立した生活を続ける工夫に加え、いざというときの段取りをしておくことが必須です。
自治体の生活援助サービスを知っておくこと。民間の見守りサービスも充実してきています。
どの段階で誰の世話になるのか、決めておく。親族や友人で託せる人がいれば話し合いを。
いざというとき気づいてもらえるセーフティーネット作りを。近所・地域と緩くつながっておくとgood。
元気なうちに自治体高齢課や社会福祉協議会、担当の地域包括支援センターに出向いてサービスや施設の情報を得たり、あれこれ相談するクセをつけておきましょう。税金や社会保険料を払ってきたのですから、「使える行政サービスは全部使う!」つもりで。
単身高齢者(予備軍)として、行政サービスへの自己PRもしておくと、後々役に立ちます。
4)エンディングプラン・・・おひとりさまに必須の情報伝達とは
エンディングプランとは、終末期および死後の希望を書き残し、事務負担を託すことをいいます。ポイントは4つ。前提として、おひとりさまには“遺言書”と“エンディングノート”は必須です。
自分の意思と財産を誰に託すか、決めて準備する。遺言書、信託契約、後見契約など。
終末医療についての希望を書き記す。余命宣告、延命措置、臓器提供、尊厳死など。
葬儀や埋葬について決めておく。葬式や墓の希望など。見学相談会・生前契約もあります。
死後の手続きを委託する。死後事務、遺品整理、相続、遺贈など。行政書士・司法書士等の専門家、NPO法人等が請け負いますが、まずは社会福祉協議会等の窓口へ相談しましょう。
また、忘れてならないのは「エンディングノートや遺言書の用意がある」ことを事前に誰かに知らせておくこと。そのためにも、“託す人”を決める必要がありますね。
エンディングプランは気が重いテーマ。まずは「生前整理」で心を整えてから取り組みましょう。
本コラムでは、「生前整理の基本 - モノの片づけ・心の整理・情報の伝達」について、順を追って詳しく解説していきます
「生前整理」は「モノ・心・情報を整理」して、あしたの道すじを照らすこと。ひとりでも多くの方が新しい目標をもって幸せに生ききることができますよう、と願いつつ
~本コラムの筆者プロフィール~
村上 充恵氏
ル・リアン横浜代表。生前整理コンシェルジュ。神奈川大学EXT講座講師。セミナー、相談会などを通じて生前整理メソッドをわかりやすく伝える活動をしている。生前整理普及協会アドバイザー認定指導員、ファインシャルプランナー2級技能士。