~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
冷凍と冷蔵がわからなくなった母
溶けた冷食も3年前の調味料もゴミ袋へ
頼もしくなる息子たちとは裏腹に、老いから目を背けられないのが91歳の母(彼らのばあば)。二世帯住宅の1階が母の住まいで、2階3階に住む娘(私)家族とつかず離れずで暮らしている。ゴミ出しや新聞の共有などで毎日顔を合わせるので、生存確認というか体調確認はできる。何事にも自分の意志が強い母だから、今のところはこの距離感で平和を維持している。
2度の骨折を経て室内外ともに歩行器が必要だし、胸にはペースメーカーを埋めているが、趣味の社交ダンス通いは今も欠かさない。バスと電車を乗り継いで片道2時間。「乗ればみなさん席を譲ってくれるのよ」。ダンスしに行くのにすみません。イケメン講師が腰に手を回して支えてくれるので、踊る時だけは歩行器も杖も使わない。
人ごとではない冷蔵庫問題
そんな母の室内は、こぎれいな状態が続いている。もったいないバアさんがとり憑いていて、物を貯め込む私とは大違いで、母はバサッと物を捨てられるし、「あげるわ」と娘に押し付けられる。引き受けた私は捨てられずにしまい込む。
ただ最近、「買いすぎちゃったからあげるわ」と渡される冷凍食品が溶けていることに気づいた。冷凍なのに、ぐにゃっとした感触。母の冷蔵庫を確認したところ、冷凍食品が冷蔵スペースに詰め込まれていることに気づいた。ぐにゃっとしているにもかかわらず、数カ月後の賞味期限を信じてしまう。
そこで母の許可を得て冷蔵庫の大掃除をした。1人には大きすぎるサイズに隙間なく詰め込まれた食品の山。もったいないけど、冷蔵に入れた冷凍食品はすべて廃棄。ドアポケットの調味料も老眼鏡をかけて仕分けしたら、3、4年前のものがザラにある。
45Lゴミ袋2つ分をゴミに出す時は、フードロスに胸が痛んだが、小言は言わないようにした。母はダンス以外でも外出が大好きで、歩行器を押して毎日1駅、2駅の距離を散歩する。行った先のスーパーやコンビニで食品を買って帰るのが楽しみなのだ。だから一言だけ。「冷凍か冷蔵か迷ったら、冷凍に入れてね」。あ、これも小言か。遠くまで歩かないし、「まだイケる」と物を貯めこむ私は、母を上回る“冷蔵庫パンパン老人”になる予感しかしない。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。長男独立後は社会人1年目の次男、大学1年生の三男と夫の4人世帯に加え91歳の母と二世帯同居している。