~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
記録的寒さの街に繰り出すのは観光客だけ
円安と物価高で6人分の食費にも震える
週末から火曜まで、実質4日間のニューヨーク滞在。大学の体育会に備えてフィジカル強化中の三男には、毎朝セントラルパークを走ることを薦めたが、JFK空港に到着した時点でそれが非現実的なプランだと気づく。立春も過ぎたというのに、「不要不急の外出を控えて」とニュースで繰り返し呼びかけるほどの記録的な寒さに襲われたのだ。
私たち6人の服装は、ベンチコートや厚手のダウンに手袋、ニット帽、鼻まで隠れるネックウォーマーという重装備。写真で見たらどこの誰だかわからない。マイナス15℃の五番街は人影も少なく静まり返り、セントラルパークにいるのは、雪の上を跳ねるリスと、ソリ遊びの親子数組。ダコタハウスの前で手を合わせ、ストロベリーフィールズの記念碑を前に家族で自撮り。パシャ、シーン…。ハーレムに足を延ばして教会のゴスペルに触れ、改装中のアポロシアターを前に家族で自撮り。パシャ、シーン…。
ゴッホもピカソもシャガールも
それでも美術館に行けば人がいた。息子たちは教科書でしか知らない巨匠の作品を、飽きるほどナマ鑑賞できた。「この絵、本物?」。ゴッホの自画像と自分をフレームに入れて自撮りする三男。見ていた私はふき出したが、周りにいた世界各国の若者たちも、推し活のごとく各巨匠の自画像とセルフィーする。息子たちにはブロードウェイミュージカルも刺激的だった模様。何か少しでも心動いたなら、来てよかったな。寒かったし、色々お高かったけど。寒さと伝票に震える4日間、なんつて。
グラウンドゼロに手を合わせて、チャイナタウンに向かう。大学卒業間近で22歳だった私が、NY留学中の友人と食事をした店が今も営業している。その北京ダックの店を家族6人で訪れた。パリパリの皮だけでなく、肉厚で満腹になる北京ダックの味は、当時と変わらないように思えた。
ちなみにオーダーは嫁が担当。大学での専攻もあって、彼女は英語をしゃべり慣れていた。自分より話せる人がいるとみんな寡黙になる。行きの飛行機のアニメ映画で密かに予習していた次男も、家族といる時間に英語を発することはなかった。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。長男独立後は社会人1年目の次男、大学1年生の三男と夫の4人世帯に加え90歳の母と二世帯同居している。