~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
家2軒持てたら資本家の仲間入り?
子供たちと海辺で過ごす週末を妄想
インターネットが日常に無い時代から、新聞の折り込み広告で不動産情報を見るのが好きだった。手の届かない物件を見ては、そこでの暮らしを妄想する。複数並んだ建売住宅の配置図を見ては、「角地のD号棟がベストだな」などとコスパをシミュレーションする。この“アイドリング状態”があったからこそ、買うべき時に物件を選べたと思う。
自分の家を持った時、会社の先輩に言われて「なるほど」と思った一言が、「2軒持てれば資本家の仲間入り」。話の趣旨としては、「僕も君も自分が住む分しか買えないのが残念だな(笑)」という自虐的な流れだったが、印象に残った。
中古車程度の予算で古家を買う
それからしばらく経ち、小さなセカンドハウスを海の近くに持ちたいと思うようになった。週末は子供たちを連れて海岸に降り立つ生活を送りたい。
熱心に調べ始めたきっかけは、山梨県の別荘地に新築した友人宅に招かれたことで、夏は避暑のため、冬はスキーのために東京から通うという。土地は借地なので費用は抑えめ。また別の友人は、サーフィンが趣味のご主人が、外房の海岸近くに土地付きの古家を「中古車程度の値段で」購入したという。時期が来たら手放す前提の、人生を楽しくするセカンドハウス。結果的に、貯金より良い投資になることもある。
小さな子供を抱えて、目先のローンと教育費の重圧に耐えながら、不動産情報をチェックするのは、現実逃避の楽しい時間でもあった。「土地(古屋有)なら?」「昭和のマンションなら?」「ハザードマップにかかる立地なら?」と、奥の手まで検討を重ね、やがてマイブームは下火になっていく。
そうこうするうちに子供たちが成長して、塾通いやら部活やらで多忙になり、週末を一緒に過ごす時間も減った。“親より友達”時代の到来だ。それも経たうえで、コロナ禍終わりに何度目かのセカンドハウスブームが到来する。その話は次回。

~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え90歳の母と二世帯同居している。