~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
斜面に作られた洞窟型の白いホテル
日本でもこんな家に住んでみたい
ギリシャ留学中の次男の家を訪れたついでに、アテネから飛行機で1時間ほどのエーゲ海の島、サントリーニ島まで足を延ばした。夏は観光客で混みあうこの島も、秋冬には少しだけ静けさを取り戻す。
カルデラを囲む急斜面に建つ真っ白な家々とブルードームの教会。鈴を鳴らしながら小道の階段を上っていくロバたち。車が入れないクネクネとした細い路地に咲く鮮やかなブーゲンビリア。島全体がおとぎの国のようで、幼い頃に見た絵本のようで、ノスタルジックな気分になる。
直行便がない日本とギリシャ
そんな島の小さな洞窟型ホテルに泊まった。迎える客はわずか2組で満室。漆喰塗りの塀から続く幅の狭い階段を下りると、バルコニーとホットタブが姿を現し、その奥に玄関ドアがある。エーゲ海を見下ろす真っ白なバルコニーには時折、気まぐれな猫たちが訪れる。
島の斜面に貼りつくように建てられたこのホテルは、外観も室内もなめらかな曲線で構成されていて、冷たいものや鋭角なものが存在しない優しい世界を作りだす。漆喰を塗り重ねた意匠の根拠は、エーゲ海の強い紫外線を防ぐためとか、冬の強い北風から守るためとか、噴火による地震から斜面を守るためでもあると聞く。
それにしてもこの心地よさはなんだろう。もし日本にこれが作れるのなら、このケイブハウスに住みたいとさえ思う。実際は、気候も条件も法令も違うから難しいのだろうけど。
迎えてくれたホストのアナマリアさんには、うちの三男と同い歳で大の日本好き高校生の息子さんがいるという。彼は日本のアニメとゲームに心底ハマっていて、いつの日か秋葉原に行くのが夢なのだとか。分厚いメガネをかけてニッと笑う彼の写真を見ていたら、飛行機の直行便すらないギリシャの、さらに乗り継いで来た遠い島だというのに、一気に距離が縮まり親近感がわいてしまった。

~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え89歳の母と二世帯同居している。