~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
厚底スニーカーはパンプス3足分
ついこの間まで子供靴だったのに
子供の靴はかわいい。出産祝いでいただいたシルクサテンの真っ白なベビーシューズを、ピンク色の真珠の粒のように並んだ足の指にかぶせた感触がまだ私の掌に残っている。3回経験した新生児との日々は、いつも小さな足の感触と結びついて蘇る。結婚当初、夫は美人姉妹の父になる野望を抱いていたが、妻は“男腹”の持ち主だった。ベビーベッドに寝て空に向かってキックする息子たちの足は最初からかなり骨太で、それでも両足を母の片手で包める時代があったのだ。
母の裁量で捨てる時期は過ぎて
それが今や息子3人揃って28cm超の毛深くてゴツゴツした健脚に育った。革靴やブーツはもちろん、普段のスニーカーやサンダルでも靴棚の奥行が足りずに少し斜めに傾けて収納している。高校生になるまではどんどんサイズアウトして買い替えるし、母の裁量で捨てられるからストックはさほど増えなかったが、おしゃれ度が高まるにつれて靴の数は増える一方だ。そもそも1足で母のパンプス2、3足分のスペースを占拠する。トレッキングシューズとかサンダルとか、スパイクにトレシューにフットサルシューズ、テニス用、学校行事で買ったマリンシューズetc。どれが稼働中でどれがお気に入りなのかは本人たちにしかわからない。となればスペースを譲るべきは母か、と腹をくくる。
最近はハイヒールも履かなくなったし、大好きだった夏のヌーディなサンダルも足の甲が焼けるから避けている。ロングからショートまで揃えたブーツも絞り込もう。そうやって靴も服も等身大のラインナップに絞っていく作業はなかなか心地よくて少し寂しい。また痩せたら着ようと思って仕舞い込んだ服も処分した。それでいいのか?と自問自答し、痩せたらまた買うからと思うことにした。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子(はやま・いくこ)
ライター。小学校時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え88歳の母と二世帯同居している。