~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
じわじわ侵略される共有スペース
ばえる空間のはずが物干し場に
新築時、建築家からの紹介でインテリア誌や女性誌など数誌から取材を受けた。誌面に載る写真は実物以上に素敵に見えて、なかでも一番大きく掲載されたのは玄関から2階リビング、3階へと繋がる螺旋階段だ。窓の外に広がる緑を背景に、白い曲線を描く階段とパイン材の踏み板の組み合わせが美しかった。
洗濯ピンチハンガー4台出動
そんな我が家随一の“映えスポット”である螺旋階段が、主婦目線で見たらこれ以上ないほど実用的な機能を持つことに、入居後まもなく気づいてしまう。物干し場だ。洗濯機から螺旋階段までわずか3m、動線に無駄は全くない。当初はハンガー2、3本をこっそりかける程度だったが、そのうち夫が風呂上がりのバスタオルを手すりに干すようになった。バスタオル5枚を毎日洗濯は大変だからと、息子たちにもそうするよう夫が指導した。リビングの真ん中、フロアをぶち抜く螺旋階段に5枚のバスタオル。1枚はロックスターの巨大ロゴ入りだ。すでにインテリアは台無しだが背に腹は代えられない。子世帯の我が家にはベランダがないのだ。子の成長と共にハンガー干しが増えていき、角型ピンチハンガーがぶら下がり…現在は洗濯の度に4台のピンチハンガーが出動している。常設ならなおラクだが、そこだけはまだブレーキが効いて毎回全部片づける。何のブレーキだ。
洗濯物を息子たちに片づけさせるのにまた一山ある。ハンガーの服はまとめて3階の踊り場の手すりにかけ、3人が自室のしかるべき収納にしまうことになっているが、母がキレるまで放置されることが常態化。ましてやおしゃれ男子の次男は5畳に服を収容しきれず、階段の手すりを専用ハンガーラックとして、一角を靴下置き場として私物化しつつある。階段で着て履いてそのまま玄関から出かけて行くのって、確かに動線に無駄はないけれど。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子(はやま・いくこ)
ライター。小学校時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え88歳の母と二世帯同居している。