~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
その2畳分を外にするか室内か
またしても憧れと現実のせめぎ合い
猫脚のバスタブを諦めてユニットバスにした話を前回書いた。今回は広いテラスをやめて居室にあてた話。振り返ると我が家の設計士は、目がハートになった夢見る主婦に現実をつきつける才能の持ち主だったかも。いや、夢は叶えてくれたのだけど、そのこだわりが必須か淡い憧れなのかを追及する才に長けていた。
「テラスでお茶する機会は室内で過ごす時間より圧倒的に少ないですよ。雨風で汚れてザラザラしたイスとテーブルとサンダルを毎回雑巾がけしますか。緑が多いから蚊も虫も多いですよね」
うわー。夢も希望もないが、さすが施主の不精ぶりを見抜いている。その分インドアリビングを広くするように空間を振り替えたのは正解だった。
コロナ禍に1畳の書斎があれば
狭い土地で間取りの自由度が限られた中で何を欲張るのか。我が家は2階から3階への吹き抜けを選択した。隣が空き地で木々が茂り、緑の借景に恵まれたからだ。いつかそこに家が建つまでは、吹き抜けの大きな窓から緑を楽しめる(結果15年以上借景を楽しませてもらった)。その分、テラスのほかにも色々なプランがお流れに。夫は1畳でいいから秘密基地になる書斎が欲しいだとか、円形浴槽が欲しいだとか、小さな声で独り言のようにつぶやいていたが、日々の子育て空間と予算に飲み込まれてスルーされていった。しかし今思えば、コロナ禍でリモートワークとリモート授業が同時進行していた3年間、1畳の秘密基地があればかなり便利だったかも。18年前にコロナ禍を予想することはできなかったけれど。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子(はやま・いくこ)
ライター。東京都生まれ。子供時代に家族と首都圏を転々とした後、神奈川寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野、インテリア関連の記事を中心に執筆。社会人、大学生、高校生の3人息子の母。