~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
二世帯住宅を建てて暮らして17年 経験からふり返る家づくりのこと
脇腹に乗せられた、つるつるした小さなかかとの軽いこと。伸ばした後ろ足で母を確認してはまた眠る、ほのかな寝息を感じて目覚めたけれど、添い寝するおチビさんはもういないんだ。ベッドが広くて涙が出た。
3LDKの家を建てたのに、入居2年後に生まれた3人目とその兄2人、それから夫婦が1つの6畳間で寝ていた。川の字と言うより「正」の字のように、猫の親子のようにして。今朝見た生々しい夢は、いつも乳幼児と添い寝していたはるか昔の記憶。長男は間もなく社会人になり独立していく。
リモートで混雑する家
息子たちは3人ともひょろっと大きく育った。天井が高めの設計で助かった。天地は余裕があるものの、3LDKで子ども3人だから次男三男は今も同室。ジュニアサイズのベッド2台を壁に沿わせて置き、パーティションで空間を仕切っている。ベッドの長さと身長が僅差になり頭や足をゴトゴトとよくぶつける。そんな密度の濃い家の中が、コロナ禍のリモートワークとリモート授業でますます濃くなっていた。三男もコロナ禍の間に15cmほど背が伸びた。長男の独立で弟たちはそれぞれ自室を確保するだろう。きっと心の中でガッツポーズをとっている。
小さなかかとを母の脇腹に滑らせて寝ていた長男は、今では28.5cmのごつい足の持ち主。昔の夢で感じた喪失感は笑い話にして、週末に帰ってきたら一体どこに彼を寝かせるのか、考えてわくわくすることにしよう。大好きな3LDK、築17年の家。ちなみに1階は母世帯の1LDKという二世帯住宅だ。この家で育った子が巣立ちを迎える今、母目線・娘目線で住まいのことを綴っていきたい。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。東京都生まれ。子供時代に家族と首都圏を転々とした後、神奈川寄りの都内に定住。
大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。
現在はフリーでエンタテインメント分野、インテリア関連の記事を中心に執筆。
大学院生、大学生、中学生の3人息子の母。