~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
幼少期の冬の風呂場の記憶
冷たすぎる床で風呂嫌いになった夫
18年前の新築当時、周囲で流行っていたのは「白を基調としたミニマムでモダンなデザイン」。おしゃれ感あってローコスト。そのグループに我が家は入る。住設関係のパンフレットに登場するのは、透明ガラスドア越しに見える、床も壁も真っ白いタイル貼りのバスルーム。浴槽横にはタンクレストイレが鎮座する。私もそんなバスルームが欲しかった。できれば猫脚のバスタブで。インテリア誌から資料写真をたくさん集めたし、バスルームは見せ場の1つだと設計士も話していた。
しかしそこで立ちはだかったのが、夫の「冷たいタイルの床は嫌だ」宣言。子供時代に暮らした古い家で、風呂場の床が冷たすぎて入浴が嫌いになったという。確かに昔の家は寒かった。引っ越し好きな母の影響で、何度となく新築住宅に入居してきた私でも、親戚の家かどこかの記憶で、風呂場の玉砂利模様の床に足をつけた時の冷たさが記憶にある。なのでそこは夫に譲り、一般的なユニットバスを採用した。床は温もりと速乾と抗菌が売りの機能性素材。工期も予算も驚くほど圧縮された。
正義のアニメキャラで埋まる壁面
実際に暮らしてみると、その床は温かくカビも生えにくい。シャープな角もなく手すりもあって、やんちゃ男子たちがふざけて遊んでも安心だ。これがガラス扉にタイル床だったら何度も冷や冷やしたはずで、3人息子の子育てをする家としてはユニットバスが正解だったと考えることにした。ただ、真っ白なようで黄色味の強い窓枠や、なぜこの色?と突っ込みたくなる量産パーツの味わいが、モダンデザインの資料を漁りまくった目にはちょっとだけ残念だった。そんなディテールも、アニメキャラのひらがなシートや戦隊もののソフビ人形に容赦なく埋め尽くされていったのだけど。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子(はやま・いくこ)
ライター。東京都生まれ。子供時代に家族と首都圏を転々とした後、神奈川寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野、インテリア関連の記事を中心に執筆。社会人、大学生、高校生の3人息子の母。