~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
フロアも玄関も分けた二世帯
育児と介護と自分時間の切り替え上々
新居の設計を進めていた当時、母はすでに69歳だったが小さな会社の役員秘書として勤めを続けていた。言いたいことを言い、やりたいことをやってきた母は年齢よりかなり若く見られた。趣味の社交ダンスの影響で背筋がピッと伸びている。介護の具体的なイメージを私はまだ持てていなかった。ただ近くにいれば移動のロスは少ないに違いない。むしろ小さな2人の息子(その後3人に)の子育てに、退職後の母の手を借りられるメリットは大きい。
1階が親世帯、2階3階が子世帯。空間をどこまで分離するかは迷いどころだった。中扉で行き来できるパターンも考えたが、結果的には完全分離にした。玄関の外に出ると隣に玄関ドアがあり、鍵がないとお互いの住居に入れない。将来的に1階を賃貸にしたり、私たち夫婦が1階の住人になる可能性もある。そして何より、ただでさえ自分の時間が持ちにくい子育て期間に、1人だけの時間を確保できる距離感は大事にしたかった。夫はなおさらだろう。
孫3人とのグループトーク
入居後しばらくして退職した母は、思ったよりも趣味や社交に時間を使い、家を空けることが多かった。なので連日とまではいかなかったが、それでも保育園のお迎えや土日の預かりなどをよく引き受けてくれた。子世帯で母が夕飯を作り、孫たちと共に食べる日も多かった。子育ての手助けをしてもらったことで、今87歳になった母に必要な手助けをすることが自然にできる自分がいる。それは息子たちも同じようで、力仕事や細かな雑用、網戸の交換、通販の発注やアプリの使い方指導など、連日のように祖母宅に顔を出して手助けしている。新しもの好きな母はスマホとメッセージアプリが大好きで、「おばあちゃんと3兄弟」のグループで娘夫婦抜きのやり取りをしている。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子(はやま・いくこ)
ライター。東京都生まれ。子供時代に家族と首都圏を転々とした後、神奈川寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野、インテリア関連の記事を中心に執筆。大学院生、大学生、中学生の3人息子の母。