~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
財布失くした中学生の次男
頭ごなしに叱ったことを今も後悔
住所記載のある会員証や免許証、保険証などを家の鍵と一緒に財布に入れて持ち歩く人、少なくないのではと思う。うちの次男が中学生の時、友達と何人かで遊びに行った先で財布を失くした。帰り際にクレーンゲームで夢中で遊んで、電車に乗ろうとして、なぜか口の開いたボディバッグの中に財布が見当たらないことに気づいたと言う。友達に電車賃を借りてから1人で引き返し、道中で財布を探し、店に戻って尋ねたが届けられていない、おそらく出てこないだろうと言われた。夜遅くにしょんぼり帰って来た次男に、「帰りが遅い!」「ゲーセンで遅くまで遊んで財布を落とすなんて!」と畳みかけ、「盗まれたと思う」という彼の言葉を言い訳として跳ねのけた。「言っても無駄じゃん」。すでに涙で汚れた顔をしていたことに気づいたのは後からだった。そこから反抗期が加速して口数が少なくなった。玄関錠にまつわる苦い思い出の2つ目は、今も後悔と共にある。
現金の被害額は2000円でも
住所と一緒に失くした鍵は交換しないわけにはいかない。施工まで待つこと数日、二世帯6人分のスペアキー含め、鍵の交換には何万円もかかった。現金2000円入りの財布に、住所記載のものがなければかからなかったコスト。誰かが夜中に鍵を開けに来るかもと思うと怖かったが、二重鍵にしていたお陰で眠ることができた。かつて1歳の三男が閉じ込め事件を起こし(「玄関錠で手痛い失敗(上)」参照)、冷や汗をかかされたドア下部のシリンダー錠。その鍵を持ち歩かなかったことで今回は助けられた。
半年ぐらい経って、財布は都内遠方の公園に捨てられていたと派出所から連絡があった。塾の会員証や診察券はそのままに、現金と鍵は抜かれていた。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子(はやま・いくこ)
ライター。東京都生まれ。子供時代に家族と首都圏を転々とした後、神奈川寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野、インテリア関連の記事を中心に執筆。社会人、大学生、高校生の3人息子の母。