~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
防犯のためドア下に後付けした鍵
幼児には楽しい玩具だった
玄関の鍵で苦い思い出が2つある。1つ目は入居から3年ほど経った頃。「防犯のためには二重鍵がいいらしいわよ」。テレビで得た情報を即実行するタイプの母はすでに鍵屋の予約を入れていた。二世帯の木製玄関ドアそれぞれの下側、床近くに鍵を追加し、各自が2本の鍵を持つ計画。内心面倒だなと思っていた私は、鍵は持ち歩かずに、夜間だけ二重鍵を内側から閉めようと考えていた。
開けられないのが1歳児
そして言い出しっぺの母も、2本目の鍵を持たずに外出するようになった頃に事件は起きた。外出先の私の携帯電話に、当時1歳の三男と留守番していた母から鬼気迫る声で着信が。「締め出されちゃったの!」。2人で散歩に行こうとして母が玄関から出た瞬間に、三男が内側からシリンダー錠をくるっと回したと言う。三和土にしゃがんだら目の前にある丸いものに興味を引かれたのだろう。よちよち歩きの三男はまだ言葉もほとんど話せない。鍵は家にある。ドアの細長い窓部から中をのぞき込んで「開けて!」とジェスチャーしても、驚いた三男は泣きじゃくるばかり。もっと悪いことに、子世帯の玄関は二階に上がる螺旋階段が目の前にある。四つん這いで上がってしまったら落下の危険が!
外出先で連絡を受けた私もパニックだった。近くの交番で相談したが、鍵を開けるならプロが速いとのことで鍵の110番を調べてもらい、電話で至急の依頼をしながら飛んで帰った。業者が来てドアが開くまでどのぐらい経ったか思い出せない。その間、3cm幅の窓部から三男の気を引いて階段に向かわないように大声で話しかけ、作り笑顔で手遊びを見せ続けた。ドアが開いた時は母子抱き合って泣いた。業者さんありがとう!
そして二つ目の痛い思い出は次回に。
※三和土(たたき):諸説ありますが、玄関で靴を脱ぐ空間として表現しています。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子(はやま・いくこ)
ライター。東京都生まれ。子供時代に家族と首都圏を転々とした後、神奈川寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野、インテリア関連の記事を中心に執筆。社会人、大学生、高校生の3人息子の母。