~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
玄関をふさぐ6個入りボールバッグ
濡れたスパイクと共に異臭を放つ
畜舎のような、濡れた靴の中のような、濃厚な臭いが立ちのぼって来る。2階リビングまで届くその臭いの源はいつも1階玄関にある。チームの試合のために持ち帰った6個入りボールバッグ(布製)だったり、給水ボトルやプラカップの詰まった備品バッグ(布製)だったり、薬箱(布製)だったり。なぜかいちいち布製でしっとり湿っている。濡れたスパイクをシュードライヤーで乾かす際に放たれる強烈な悪臭もしかりだ。
次男の小学生時代から現在高2の三男まで、狭い玄関をチームグッズが陣取る暮らしが日常化している。そうと知っていれば新築時、玄関に換気用の小窓をつけたのに、と後悔しても遅すぎる。
週末をチームに捧げるママたち
チームスポーツは素晴らしい。男子3人の子育てを通じて、今なら心からそう思える。でも悟るまでの道のりは長かった。絵を描くのが好きで運動部未経験の少女時代を過ごした私。次男の小学校入学と同時に始まったその生活は衝撃的すぎた。
サッカーママってこんなに大変なんだ。毎回そう思っても上書きされる“大変”の数々。引率や帯同、練習後のトイレ掃除、真夏の氷作り、コーチの食事用意、お世話役、ユニフォーム担当、飲み会幹事、蹴り初めの豚汁作り…。
泥だらけの洗濯物とか、炎天下のグランド当番とか、それだけでも無理~と思っていたのに、より難度の高い役割を知るにつれ、リミッター解除を余儀なくされていく。
学年が上がれば、代表チームに選抜される子とそうでない子の差がつき、子の召集に関係なく親は会場で運営を担う。笑顔で引き受けて労を惜しまないスポ根ママも少なくないが、私の笑顔はかなりひきつっていたはずだ。
でも気づけば卒団までがんばった。三男も年長からサッカーチームに入った。長男のサッカースクール送迎は含まずに、16年間にもおよぶチームママ生活だ。
換気口のない玄関から今日も立ちのぼるケモノ臭。裏返ったソックスを直したら、今日もまた山積みの洗濯にとりかかろう。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え89歳の母と二世帯同居している。