~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
収納を占拠する賞状やトロフィー
複雑な思いごと手放すタイミングか
3階の収納扉を開けると、大きな衣装箱が空間を占拠している。中身は次男の小学生時代のサッカーチームで獲得したトロフィーや楯や賞状の数々。この立派すぎるコレクションを見るたびに複雑な気持ちになる。
小学生時代、次男はそこそこ強いチームの控えの選手だった。卒業時に倉庫一掃の目的から、チームが獲得したトロフィー類を選手全員でジャンケンして分けることに。試合では控えだがジャンケンは強かった彼。自分が出場していない大会の優勝カップや立派なトロフィーなど、ラスボス的グッズをたくさん抱えて帰宅した。欲しかったのだろうし、嬉しかったのだろう。「俺、ジャンケン強かった!」。12歳のご機嫌な笑顔だった。
とはいえ、主力選手だった仲間も遊びにくる家にドヤ顔で飾るのも微妙だし、どうしたものか。次男自身はジャンケンで勝ち抜いたことに満足し、思い入れのないトロフィーはすぐに収納に押しやられた。以来10年、それらは一度も彼の目に留まったことはない。
出てない試合の立派なトロフィー
最近、元キャプテンのママとトロフィー話をする機会が訪れた。「小学生時代のあれ、どうしてる?」。大学でも本気のサッカーを続けている元キャプテンに進呈したい、そんな思惑で尋ねたが、期待はあっさり裏切られることに。「捨てたわよ。引っ越した時に全部捨てた」。
そういえば元々、彼女は“捨てる派”だった。子供たちのランドセルも卒業式翌日に捨てたと笑った。トロフィーはキャプテンが持つべきだとか、控えの選手だったから飾りにくいとか、モノにまつわるストーリーに執着して、飾ることも手放すこともできなかったのは私だったのだ。
過去をさっさと手放したママ友の隣で、そろそろ収納を一掃しようと決意する私。22歳になった次男に意思確認したら、まず「要らない」と言われるだろう。それでも母は、立派な銀杯を手に取ってまた迷うのだろうけど。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え89歳の母と二世帯同居している。