~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
必要に迫られてするリフォームは高齢の母のためのものが中心
健脚だった母が転んで骨折したのを機に、玄関ドアまでの外階段に手すりをつけた。白い外壁になじむシルバーの手すりの予定が、「目立つように濃い色にして」という母の希望でダークブラウンになった。「濃い色の方が高級感があるわよ」と上から目線。高級感って一体。「これ買ったけど使わないからあげるわ」と、母世帯からやってきた物は数多いが、自分がもらった服は好みじゃないから袖を通さないという、自分軸が明快でうらやましい性格だ。
壊したのか壊れたのか
そんな母が「壊れた」と断言して買い替えた家電や設備は少なくない。まず交換したのが給湯器。リモコンにエラー表示が出たので修理依頼したところ、リモコンの故障か本体の故障かわからないと言う。リモコンを買い替えてだめなら本体を、という2段階を待てずに交換を決めたのは、「うちの給湯器がバンって音立ててカバー扉が飛んだの!」というママ友の体験談を聞いて怖くなったから。
エアコンを買い替えたのも1階の母世帯が先だった。2階3階の子世帯4台分は17年使ってから一新した。見た目の満足度と“家事ラク”を一気にアップデートするトイレやコンロ、キッチン水栓などのリフォームに比べたら、エアコンは費用がかかるわりに喜びが少ない。年々暑くなる日本の夏にはもちろん不可欠なのだけど。
母の買い替え欲求は続く。玄関のインターホンの声が聞きづらいから交換(耳が遠くなった?)。窓の開閉ハンドルが折れ曲がったから買い替え(力づくで回した?)。…故障だと言い張る母には、すぐ直せるもの以外、本人の希望通り新品に買い替えた方が早いと思ってしまう面倒くさがりな私。うまく操作できないイライラは娘に向きがちだからだ。
ただしスマホは3人息子がちゃんと対応してくれている。「壊れた」「設定がおかしくなった」「迷惑メールが来た」「写真を送りたいけどどうやるの」…孫にはニコニコ素直に教わる母って一体…。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。東京都生まれ。子供時代に家族と首都圏を転々とした後、神奈川寄りの都内に定住。
大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。
現在はフリーでエンタテインメント分野、インテリア関連の記事を中心に執筆。
大学院生、大学生、中学生の3人息子の母。