~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
紙ヤスリとミツロウでツヤツヤに磨いた翌日
長男が初めて家に彼女を連れてきた
高校生の息子のサッカーの試合を、息子の彼女と並んで観戦するママ友がいる。別の家では、ママの仕事上のイベントを、大学生の息子と彼女が毎年手伝う話も聞く。「別れなければ結婚するかもね」とママ友たちは笑う。三人息子に関してそういう経験もないまま、結婚は30歳過ぎだろうと高をくくり、「決めたら連れて来てね」のスタンスで構えていた私。
27歳の長男が「来年ぐらいに結婚するかも」と言い出したタイミングは初夏だった。遠距離恋愛でつきあいは1年ほど。新幹線や夜行バスで毎月会いに行ったり、来たり。社会人である2人には、移動時間に比べて一緒にいられる時間が短かったことだろう。「年内に両家顔合わせをする」「遡って10月に挨拶に行く」「その頃うちにも連れてくる」と前倒しで話が進むなかで、2人の強い意志を感じた。決めたのね。
息子の二日酔いの記憶が強烈で
レストランを予約して、初めて4人で食事をした日。長男は前夜の飲み会からの二日酔いでヨレヨレだった。「腹が…」と何度もトイレに立つ息子に代わって謝る我々夫婦。彼女もなんだか申し訳なさそう。この状況で平然としていたのはマイペースな長男自身だけだった。「次回はちゃんとします(笑)」の言葉通り、翌月には祖母も弟たちも含む家族全員で食事をして、その後うちでお茶しましょう、となった。
私が古いダイニングテーブルを磨き上げたのは、その前夜のこと。もう大きくなった子供たちの、クレヨンや鉛筆の跡が残る木製テーブルを、ゴシゴシ。頭ごっつんしないように四隅に貼ったクッション材のテープ跡が残っていて、拭きながら泣けてきた。ゴシゴシ、くっすん。3人も息子がいるのに、1人出て行くのは寂しいなぁ。PCやスマホのわからないことなんでも聞けたしなぁ。次男は今より饒舌になるかなぁ、ゴシゴシ、きゅっきゅっ。
翌日、彼女が我が家にやってきた。長男の幼い頃のアルバムを見せて、その可愛さにキュン!かと目論んだが、そこはスルー。彼女は目を見開いてこう言った。「お義母さんの若い頃の写真、女優の○○さんみたいですね!」。え、そこ…?そうくるか…。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。長男独立後は大学院生の次男、高校生の三男と夫の4人世帯に加え90歳の母と二世帯同居している。