~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
20年間相棒だったドイツ製食洗器に
いよいよお別れの時がやってきた
20年前の新築時にビルトインで設置した、ドイツ製の食洗器。5人分の食器を洗うために毎日フル稼働させてきた愛着あるマシンが、ついに終わりの時を迎えた。数年前にモーター交換した時と違って、今回は器械の不調が表れる前にブレーカーが落ちた。食洗器あたりから漏電しているという。
同メーカーの新型を検索して思わず声が出る。「高っ!」。新築時は掛け率が抑えられたり、設置費用が直接目に見えなかったり、円高だったりもおそらくあったのだろう。いまだと当時の倍ぐらい費用がかかる印象だ。
自分の食器は自分で洗う習慣
買い替えを決断できないまま、食洗器に「使用禁止」の黄色いテープをバッテン状に貼りつけた。まるで犯罪ドラマの事件現場の様相で、一帯に不穏な空気を放っている。とはいえ、手洗いでしばらく過ごすうちに、夫も息子たちも自分の食器は自分で洗う習慣が定着し、むしろ家事がラクになった。これはいいぞ。
しかしある日、シンク下から水漏れが発生。見えない裏側・奥側をちゃんとしないと心配過ぎる状態になって、ようやく覚悟を決めた。ポチれば10日後に工事決定。あれこれ迷った日々がすっ飛んでいく速さで、古参のドイツ製食洗器は国産の新品に入れ替わった。20年使い慣れた前機種との違いに戸惑いながらも、みんな手洗いをやめて食洗器に入れるようになる。ただし食洗器には、満杯でこれ以上入らないとか、洗い終えた食器を取り出す前とかのタイミングがある。そういう時にはなぜか、手洗いではなくシンクにお皿が積まれていく。あれ、おかしいな。
ふり返れば、数年前に交換したキッチン水栓も、今回の食洗器も、ドイツブランドから国産品への交換だった。車も19年乗ったフランス車から国産車に買い替えた。予算先行の判断ではあるけれど、若い頃は今より外国製品への憧れが強かったかもしれない。自分が大学に入学した直後、地方から上京したばかりの友人がワクワクを隠しきれずに言った言葉が思い出される。「東京にいたら、街で外国人を見かけることもあるんでしょ?」。今の渋谷のスクランブル交差点を、彼女はどんな思いで渡るのだろう。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え90歳の母と二世帯同居している。