~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
ここまで迷って踏み切れないのは
毎回違う所に旅するのが好きだから
海の近くにセカンドハウスが欲しいーー最近、何度目かのマイブームが到来した。今回はかなり大きめのブームだ。
就職した長男の勤務地が家から遠く、電車で片道1時間半かかる。以前からセカンドハウスを持ちたいと思っていたエリアからなら30分。ワンルームを借りるより古家を買ってしまおうか。
我々夫婦の定年後の暮らしも現実味を帯びてきた。残りの住宅ローンも教育費も目途がつき、手にする退職金も計算できるようになった。新NISAは始めた途端にマイナスに転じ、向いてないわと痛感したばかり。海の近くと都心の二拠点生活に投資せよ、という追い風にも感じられる。
知らない国を家族で訪れる
ただその一方で、我が家にはコロナ禍後にもう1つの波が押し寄せている。一大旅行ブームだ。一昨年から、国内外問わず家族でよく旅行するようになった。もともと旅行は大好きだったが、上と下で10歳差がある3人息子がいて、いつも小さな子供と原稿〆切を抱えたワーキングママだったし、会社員の夫は休みを取りづらかった。3人の誰かが受験生だとか、サッカーチームの活動を休めないとか、ステイホームだとか、そんな状態が長く続いて、ようやく今いろんな縛りから解放されつつある。夫は定年を前にして会社人間の意識を変え、末っ子は附属高生だから大学受験はない。
旅行は一度行くとまた行きたくなる。子供たちの巣立ちも近い(はずだ)し、夫の定年も近づいたことで、今がラストチャンスとばかりに、無理してでも家族旅行をするようになった。LCCやマイル活用のお値打ち旅だが、非日常はとても楽しい。初めての空港に降り立つ感覚はとても懐かしい。家で話さない子たちが旅先では饒舌になる。ふだん歩かない我々夫婦も旅先なら1日中歩き回る。
いつまで彼らは親につき合ってくれるのだろう。知らない土地を旅しながら、2軒目の家も持てる余裕があればいいのに(笑)。予想と違ったのは、長男が往復3時間かけて出社するのは週2回ほどで、それ以外はリモートワークということ。これはセカンドハウスに逆風だ。もうしばらくは、家族旅行ブームを続けようと思う。

~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え90歳の母と二世帯同居している。