~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
ギリシャの海街のアパートメント
大学院生2人暮らしの部屋を訪れる
大学院生の次男がギリシャに留学中だ。研究室と企業が連携して進める研究の一環で、修士の学生2人がインターンとして現地企業で働いている。欧州各国から来た社員やインターン生もいて、コミュニケーションは英語で可能という、国際色豊かなオフィスのようだ。
院生男子2人暮らしに用意してもらった住まいは、アテネから遠く離れた静かな街の海岸近くにある。せっかくの機会だからと、次男のお宅訪問を口実にして、家族で旅に出かけた。
高校生の3男は、二世帯住宅1階の祖母と共にお留守番。「おばあちゃんを気にかけてね」と声掛けして出たものの、実際は89歳の祖母が「私の出番!」とばかりに嬉々として孫におかずを運ぶ日々だったらしい。
日本の汚部屋と違い過ぎる理由は
さて、ギリシャの海街の家は、東京の学生なら考えられない広さの2LDK。大理石調の玄関はリビングまでつながるフラットな床だが、彼らは靴を脱いで入るスタイルに。まるでカフェのようなオープンシェルフやソファセットのあるリビングの奥には、L字型デスクにオフィスチェアがあり、これらの家具も家電も会社が用意してくれたものだという。バルコニーに面した2人の個室はそれぞれ10畳ほどあり、窓からオリーブの街路樹と青い海が見える。
そんな環境や部屋の広さより、おしゃれさより、私が違和感を抱いたのは“清潔さ”だった。掃除されて磨き上げられた室内に漂う、デフューザーの上品な香り。…ん? うちの家族で掃除や片付けが一番苦手なのは次男だったはず。脱いだ服は床、出したものも床、そんな日本の自室とのギャップが激しすぎる。
次男いわく、この日不在だった同居人のSくんがきれい好きなのだという。室内を裸足で歩いて足裏に食べかすがつくのを何よりも嫌い、せっせと掃除機をかけている。「ワイルドな風貌なのに意外だね!」と合いの手を入れながらビールを飲む夫が、手元からポロポロとポテチをこぼすのを、ため息をつきながらながめる次男だった。

~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え89歳の母と二世帯同居している。