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家が記憶する中学受験

2024.10.21

白い壁の画びょう跡を見て思い出す
息子の模試に一喜一憂したあの頃

あの頃は鬼の形相だったと思う。3人息子の、特に長男の中学受験前。受験するのは息子だというのに、立ち位置の出るテストのたびに一喜一憂した私。
子供たちが大好きなキャラクターのシールを机に貼ったり、壁に画びょうで留めたりするのには難色を示してきたにもかかわらず、いつのまにか私が自ら刺した画びょうで家の壁紙は穴だらけになった。
トイレの壁には漢字の書き順表や歴史年表を月単位で貼り換え、二段ベッドには農作物や名産品入りの日本地図をテープで貼り。最初は子供と一緒に楽しくやっていたものの、いつしか鬼気迫る表情で“貼り換え屋”に徹する自分がいた。

タイルシールで覆い隠す過去

受験が終わり、穴だらけの壁に手をあてると、もっと友達と遊びたかっただろうな、と申し訳ない気持ちが湧いてきた。そう長男に言ったら、「そんなに遊びたい友達いないから大丈夫だよ」と返され、もっと落ち込んだ。
だから次男の塾通いは中学生スタートになった。自分の希望が強い、言い換えれば「中二病で反抗期」(本人談)の次男の勉強について、親が口出しする余地はあまりなかった。そして末っ子の三男は、サッカーのない曜日に小4終わりから塾通いしたが、中学から大学附属校に入って現在に至る。彼の塾通いは生涯で2年強と、3人の中で最短だ。
正解はわからない。次男は高校受験から、三男は大学附属校に落ち着いたことで、母(自分)の心のザワザワは確かに減った。今も成績アップは大好きだが、暴落しても中学受験前のような悲壮感はない。
画びょうの穴だらけだったトイレの白いクロスには、何事もなかったかのように、上からタイルシールを貼った。夜遅い塾帰りを案じていた長い時間は、大好きな韓国ドラマを見る至福の時間へとスライドした。受験戦争をドロドロに描いた傑作も多く、息子たちがそれぞれの道を行く今となっては、「そんなアホな!」と突っ込みながら高笑いして見ている。

家が記憶する中学受験