~家の記憶エッセイ~ 住まいと棲み家とお宅とアジト
住まいにまつわるショートストーリーをお届けします。
日々の、日常の、住まいと家族のこと。
朝のコーヒーを飲みながら、通勤電車の中で、煮物が煮あがる待ち時間、就寝前に。
インテリアやインタビュー記事を執筆しているフリーライターによるコラムです。
加速するリフォーム欲に押され
重い腰を上げたが遅きに失した話
ずっと気になっていた外回りのリフォームを決行したことで、他の“先延ばし案件”に取り掛かる意欲がわいてきた。どっこいしょ、と物理的にも重い腰を上げたところで壁につき当たる。あれこれ遅きに失したのだ。
まず、親世帯のキッチン。何年か前、レンジフードの掃除を依頼した時にカバーを開けることが出来ず、そのままになっていた。輸入キッチン代理店のオリジナル製品だったので、今回問い合わせようとしたらメーカー自体が日本から撤退し、本国でもキッチンの生産を取りやめたとかで窓口もなくなっていた。このまま使って、壊れたら交換するしかない。
消息は年々途絶えていくのが常
次に、窓。木製の輸入サッシは結露もなく快適でお気に入りだが、開閉ハンドルは二世帯で5個以上壊れていた。よく開閉する窓とそれ以外のハンドルを交換してやり過ごし、いずれ入手しようと調べたら、予想以上に高額でひるんだのが数年前。でも、やはりあの時買っておくべきでした。この窓メーカーもコロナ禍に日本から撤退していた。工務店のつてで別色の在庫品を白く塗装してもらい、さらに故障品も直してもらい、1ダースの確保に成功。この先、家を取り壊すまで、このハンドル12個が窓開閉の命綱になる。
そういえば昔、店装の専門誌で記者をしていた時、おしゃれなオリジナルデザインの家具を使う設計者に対して苦言を呈する寄稿者がいた。壊れてもすぐ買い足せないイスを飲食店に使うと、長く続く店ほどオーナーが苦労すると。
実はうちの隣家からも、リフォームを進めたいが新築時の関係者と連絡が取れないのだと相談された。うちの工務店社長に相談してひとまず電気工事を依頼。その後は大小問わずの工事で相談しているようだ。
結論。古い部品は買えなくなるし、設計者も施工者も年々連絡が取りづらくなるから、情報のアップデートは怠らずに。たとえ腰はずっしり重くなっていても、だ。
~本コラムの筆者プロフィール~
葉山 郁子 (はやま・いくこ)
ライター。小学生時代に4回転校するなど引っ越し好きの母と首都圏を転々とした後、神奈川県寄りの都内に定住。大手出版社で複数の編集部と雑誌創刊を経験。現在はフリーでエンタテインメント分野の記事を中心に執筆。社会人、大学院生、高校生の3人息子と夫の5人世帯に加え89歳の母と二世帯同居している。